困難な状況を切り拓くリーダー行動の調査と考察(3)完

■はじめに

私ども「株式会社トレイク」では、職場リーダーを対象に、困難な状況を切り拓くトレーニング型の研修を実施しています。
http://traic.co.jp/aboutus/

このたび、困難な状況におけるリーダー行動に関する簡易調査を行いましたので、結果と考察を3回シリーズで紹介いたします。

本稿はいよいよ最終回。

最終回は、どのようなリーダー行動をとればチーム成果につながるのかを経路(パス)でとらえます。そして、「困難な状況においては、どのようなリーダー行動をとるのがふさわしいか」を独自に考察します。

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■ここまでのおさらい
<第1回>

チーム成果(目標達成度、組織活性度、組織成長度の3項目)と相関が強いリーダー行動(42項目)について紹介しました。

※第1回はこちら

ここから考えられることは、困難な状況を切り拓く場面では、”まず”課題志向のリーダー行動や合理的なマネジメントが求められます。伝統的な「管理過程論」J.H.Fayol1916)や、その派生であるマネジメント・サイクル(PDCAサイクル)は必ず理解・実践すべきです。

<第2回>

チームを4つのタイプに分類し、タイプ別にふさわしいリーダー行動の一例を紹介しました。

※第2回はこちら

たとえば、「寄りあい型チーム」の場合、「応援体制」など人的資源の活用が見られます。「目標達成型チーム」の場合、「チームリーダー」の存在し、リーダー自身の「役割認識」、「コミュニケーション・ルート」「指示・命令」といった仕組みづくりが見られます。

<用語解説>

*困難な状況とは

何をどうすればよいかわからず、試行錯誤しながら切り拓くしかない状況。
「状況を知る、絵を描く、道筋を示す、人を巻き込む、やり遂げる」という対応が必要。

*チーム成果とは(次の3項目)

1.目標達成度……狙いとする品質・コスト・納期等に対する達成の度合い
2.組織活性度……個人の効力感、組織の一体感や相乗効果の度合い
3.組織成長度……新しい考えや方法の導入、知識やノウハウの蓄積の度合い

■この最終回では・・・

リーダー行動の要素(42項目)間に相関がみられるものがありますので、これを解析することで、どのようなリーダー行動をとればチーム成果につながるのかを経路(パス)でとらえます。

そして、結論として、「困難な状況においては、どのようなリーダー行動をとるのがふさわしいか」を独自に考察します。

1.目標達成度に影響を与えるリーダー行動の経路

「目標達成度」とは、狙いとする品質・コスト・納期等に対する達成の度合いです。

困難な状況を切り拓くチーム活動において、「目標達成度」に直接影響を与えるリーダー行動の体系は下図のとおりです。

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*すごく乱雑な図ですがご容赦ください(笑)

*係数は大まかなものですので、参考程度にご覧ください。

(1)チームリーダー、指示命令、コミュニケーション・ルート

目標達成度との相関が最も高いのは、「チームリーダー」です。チームリーダーを介して、「指示命令」「コミュニケーション・ルート」も影響しあっています。コミュニケーション・ルートは「実行計画」とも影響しあっています。

このことから、困難な状況においては、まずリーダー(またはサブ・リーダー)の存在をメンバーにはっきりと認識させることから始まります。

曖昧さや不確実さが漂い、何を信じて良いかわからない状況ですから、リーダーは覚悟をもって、「いま△△という状況にさらされている」「力をあわせてこの苦境をのりこえよう」「その先には〇〇という理想がまっている」といった説明責任を果たします。この言葉が信じるに値すればリーダーへの信頼が蓄積されて存在を認識させることになります。

そのうえで、リーダーが的確な指示命令を行うとともに、公式コミュニケーション・ルート(指示命令系統や報告・連絡・相談ルート)を確立します。

コミュニケーション・ルートが確立されると、リーダーの方針がメンバーに伝わり、メンバーの思いもリーダーに伝わりますから、一貫性のあり納得感の高い実行計画を立案できます。

困難な状況ですからトップダウンが望ましいでしょうが、メンバーの意見を受容し衆知を集めるルートづくりも大切です。

コミュニケーション・ルートがひずむ原因は、組織形態の不適切さなどのハード面がありますが、人の野心や保身、好き嫌い、情報処理能力の低さなどのソフト面も考えられ注意が必要です。

【ワーク後の受講者の声】

・人数の多い組織では一人だけでリーダーシップを発揮するのは難しい
・人数が多くなると意見の共有や発言のしやすさなど変わってくる
・リーダーに必要なのは決断力と適度な強引さ

(2)凝集性

チームの「凝集性」も、目標達成度との相関があります。「手順計画」「動機づけ」「連携」などとも影響しあっています。

このことから、目標を達成するためには求心力を高めてチームが一丸となることが必要です。

古くは理念・社歌・社章をつくったり、最近では犬やロボットを飼う(置く?)といった施策があります。社内運動会や社員旅行などの行事も復活してきました。

ただ、困難な状況という緊迫した状態で一丸となるためには、動機づけも大切ですが、優れた手順計画も非常に重要です。

いくら動機づけられたところで、目標達成の裏付けとなる道筋(手順計画)が曖昧では、みんなで頑張ろうという気にならないものです。曖昧な状況だからこそ確証が欲しいのです。

また、メンバーに手順計画と連携体制を考えさせることで、自覚的・能動的に参画していることを実感させるしかけも大切です。

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【ワーク後の受講者の声】

・先を見通した行動が大切
・組織成果は一人ひとりが参画していることが組織運用に多大な影響を与える

(3)達成感

「達成感」も目標達成度と強く影響しています。「コア・バリュー」とも影響しあっています。

このことから、達成感を味わった経験があるからこそまた目標を達成したくなると考えられます。逆に、目標達成することで達成感を覚えることができるとも考えられます。

大切なのは、そこそこの目標に対する達成感ではなく、困難な状況を克服したぐらい大きな達成感であることです。

俗に”ゆらぎを与える”という言葉もありますが、マンネリ打破や緊張感を高めるためには、「とれも無理!」と思うような目標を与えることも秘策です。(*ただし劇薬注意(笑))

また、日ごろから「お客様を大切に」「仲間の意見を尊重しよう」といったコア・バリュー(チームの大切な価値)を訴え続け、チームが目標達成したあかつきには、勝利宣言の中に「コア・バリューが目標達成に一役かったね」と訴えると、メンバーの達成感が高まります。

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【ワーク後の受講者の声】

・最初の目的・目標の立案やその意図を共有することが大切
・改めて組織として考え、方向性を示し、それを具現化(実行)する難しさを学んだ

2.組織活性度に影響を与えるリーダー行動の経路

「組織活性度」とは、個人の効力感、組織の一体感や相乗効果の度合いです。

困難な状況を切り拓くチーム活動において、「組織活性度」に直接影響を与えるリーダー行動の体系は下図のとおりです。

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(1)進捗管理、工数計画、成果物のコンセプト

組織活性度との相関が最も高いのは、「進捗管理」です。進捗管理は、「成果物のコンセプト」や「成果物の工数計画」とも影響しあっています。

このことから、作業している段階では進捗管理が絶対に大切です。「当たり前じゃないか…」と思うかもしれませんが、進捗管理を”本気”で行っている職場は驚くほど少ないのが実情です。

やっかいなのは、進捗管理は(目標を達成するためだけでなく)個人の効力感やチームの一体感を高めるためにも欠かせないことを理解しているリーダーが少ないことです。

進捗を判断する基準は、事前の工数計画です。どれくらい時間がかかるのか、どの程度進んでいればよいのかといったマイルストーンを設定するからこそ、順調に進んでいるかをチェックできるのです。順調だと客観的にわかれば効力感や一体感が高まります

順調に進んでゴールにたどり着いたところ、そのゴールは正しくないことがわかった…。そんな目も当てられない状態になっても後の祭りです。リーダーに対する信頼が一気に崩れます。

こうならないためには、(工数計画や進捗管理の前提として)成果物のコンセプトをきちんと固めることが大切です。

もし「どこを目指すのか」「どれくらいの時間がかかるのか」がわからないバス・ツアーに出かけると(ミステリー・ツアーでなければ)不安に駆られますし、たどってきた旅路を冷静に振り返ることも難しいでしょう。目指す方向と時間が明らかでも、順調に進んでいるかわからなければ、やはり不安になるでしょう。

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組織活性度を高めるためには、不安を地道に解消していくことがポイントです。

ただし、変革の時代において不安を一つひとつ解消する対処療法はチーム全体の環境適応力を低下させるリスクもあります。「合成の誤謬」という言葉があるように、一つひとつは良いことなのに、合わせると全体として悪くなってしまうことがあります。

原因を見つけて絆創膏を貼る分析型問題解決ではなく、あるべき状態を創り状況をガラリと変革する創造型問題解決が必要です。

【ワーク後の受講者の声】

・ワークとは違い実際の仕事では時間延長はないので時間配分に気をつける

(2)評価

「評価」も組織活性度と相関があります。また、先述した進捗管理・工数経過と影響しあっています。「実行計画」や「動機づけ」とも影響しています。

このことから、Plan-Doだけではなく、Check(&Action)も効力感や一体感に欠かせません。

人は、上司から指示されたことをやり遂げたのに、それについて何もフィードバックが無いと訝しく感じます。上司から良いことだけフィードバックしてもらうと嬉しい半面、自分の成長にならないことも潜在的に理解しています。

評価は、成果物を客観的に測定するとともに、リーダーの期待をもとにした主観的な判定も必要です。

客観性を担保するためには、予め実行計画や工数計画がきちんと立案されていることや、進捗管理が正確に行われていることが大切です。

リーダーの高い倫理観からにじみ出る期待をもとにした良い評価・気になる評価は、メンバーの納得感と動機を高めることになります。

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【ワーク後の受講者の声】

・リーダーの働きかけによりフォロワーのモチベーションが決まることを学んだ。

3.組織成長度に影響を与えるリーダー行動の経路

「組織成長度」とは、新しい考えや方法の導入、知識やノウハウの蓄積の度合いです。

困難な状況を切り拓くチーム活動において、「組織成長度」に直接影響を与えるリーダー行動の体系は下図のとおりです。

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(1)役割認識、実行計画

組織活性度との相関が高いのは、「役割認識」と「実行計画」です。また、実行計画は「意見受容」「動機づけ」「凝集性」「実行」「会議」「配慮」とも影響しあっています。

このことから、チームで新しいやり方・考え方をとり入れたり、活動の中からノウハウを蓄積するためには、リーダーの役割認識が欠かせません。

役割とは、短期的な目標達成を追求するだけでなく、中長期的に革新と学習をおこす責務も含まれます。

それゆえ、実行計画も短期的な計画だけではなく、新しいやり方・考え方の導入やメンバーの育成も踏まえた中長期的な計画も必要です。多くの会社で目標管理制度とキャリアビジョン(キャリアコンサルティング)制度が併用されているのも、その考えがもとになった一面があります。

短期的な目標達成とと長期的な革新・学習は、リーダーにとって板挟みの状態です。それでも、この両立を試みないリーダーは、チームを預かる立場にないといえるでしょう。

革新・学習のための実行計画と影響しあうリーダー行動は、(目標達成度と関係する)コミュニケーション・ルートの確立とは違います。メンバーの意見をきちんと受けとめたり、メンバーの人格・志向に配慮するといった、人間志向の行動があげられます。

この人間志向型のリーダー行動を偶発に任せるのでなく、計画的に操ることができれば、組織成長度に貢献します。

【ワーク後の受講者の声】

・大人数で話すよりも少人数の方が意見が出やすい
・メンバーの意見を傾聴する
・魅力的なリーダーは「人のため」を考えて実行している
・優れたリーダーは次のリーダーやメンバーを育成している

(2)進捗管理

「進捗管理」も、組織成長度と相関があります。「実行計画」や「成果物のコンセプト」とも影響しあっています。

このことから、(革新・学習を目指す実行計画を立案したうえで)どれくらい革新や学習が進んでいるか進捗管理することも、組織成長には欠かせません。

繰り返しになりますが、短期的な目標達成のための実行計画・進捗管理は大切ですが、中長期的な組織成長(革新・学習)のための実行計画・進捗管理も不可欠です。

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【ワーク後の受講者の声】

・ワークの状況についていくのがやっとでチームやメンバーの成長まで頭が回らなかった
・リーダーの先を見通した行動がチームや個人の成長には欠かせない

■おわりに

3回シリーズにわたって、困難な状況におけるリーダー行動に関する調査結果の紹介と考察を行ってきました。

「困難な状況…」というぐらいですから、”まず”課題志向型のリーダー行動が高成果につながることが、あらためて明らかになりました。

では、「課題志向型リーダー行動とは、具体的に何をするのか?」、「行動する際の留意点は?」、「何の能力を高めればよいか?」を問われると、自信をもって答えることが難しいのではないでしょうか。

また、中長期的な組織成長のためには人間志向のリーダー行動も欠かすこともできず、短期的な目標達成との板挟みのなかで、状況の応じて最適解を模索していくしかないのです。

では、「実際に板挟みにあったら、何を判断基準に、何を優先するか?」、「板挟みを解消するポイントは何か?」、「メンバーとの軋轢、自分の怒りの感情をどうコントロールするか?」を問われると、答えに窮してしまうのではないでしょうか。

妥当解を模索するより所となるのが、経験にもとづく持論であり、他者の言動であり、リーダーシップやマネジメントの理論です。

今回の調査結果をもとに、私も試行錯誤しながら研修プログラムや教材などに磨きをかけたいと思います。そして、実践的で体験型のトレーニング型研修で、皆さんの経験値を高め、持論を磨き、他者の言動を観察しあい、理論を補完していただきたいと思います。

研修の様子やポイントは、このブログで発信しつづけたいと思います。

皆さまの成果と成長を願って。

<参考>職場リーダーのための「チームビルディング研修」

<参考>1日体験版「困難な状況を切り拓くチームビルディング研修」

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斎田真一(かえる先生)

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