困難な状況を切り拓くリーダー行動の調査と考察(1)

■はじめに

私ども「株式会社トレイク」では、職場リーダーを対象に、困難な状況を切り拓くトレーニング型の研修を実施しています。
http://traic.co.jp/aboutus/

このたび、困難な状況におけるリーダー行動に関する簡易調査を行いましたので、結果と考察を3回シリーズで紹介いたします。

■「困難な状況」とは

組織を取り巻く環境変化は激しくなるばかりです。VUCA(*)

(*)VUCA
Volatility:変動性
Uncertainty:不確実性
Complexity:複雑性
Ambiguity:曖昧性

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この状況において、職場リーダーは(現状維持型または改善型のリーダーシップではなく)変革型のリーダーシップが求められています。しかし、変革型リーダーがとるべき行動はあまりにも高度で複雑になり、何が最適なのかわかりづらくなってきました。どうしても試行錯誤が必要です。(参考:「戦略クラフティング」 H.ミンツバーグ)

これを前提に、私たちが考える「困難な状況」とは、次の5つについて対応が求められる状況をさします。

  1. 状況を知る……(*外部・内部環境の情報を集め、的確に解釈する)
  2. 絵を描く………(*組織のミッション・ビジョンや成果物のコンセプトを描く)
  3. 道筋を示す……(*実現策を立案し、資源を調達・配分する)
  4. 人を巻き込む…(*関係メンバーの衆知を集め、動機づけ、行動させる)
  5. やり遂げる……(*関係組織との調整を図り、最後まで粘り強く行動する)
■調査を行うことになった背景

私どもトレイクでは、マネジメント研修やリーダーシップ研修で、「困難な状況を切り拓き、チームに成果と成長をもたらす」ための実践的なチームビルディングのワークを行っています。

あえて曖昧なテーマを出し、納期が迫るなか、チームで試行錯誤しながら最適解を模索することを通じて、困難に耐える精神力と、困難を切り拓くスキルを身につけます。

ただ、試行錯誤するがゆえに、課題、人、仕組み、規範などがダイナミックに変化します。「どのような状況でも効果が見込めるリーダー行動は〇〇です!」と無責任には言えません。

それでも、受講して下さった方に実践で役立つ”手がかり”を持ち帰って欲しいと願っています。

そこで、ワークをとおしてデータを集め、「困難な状況ではどのようなリーダー行動がチームの成果につながるのか」の結論を探ることにしました。(ご協力いただいた皆さま、ありがとうございます。)

チームを成果に導く要素・要因は非常に複雑であり、調査方法も簡易であることから、ここに記述した内容は参考程度にご覧ください。とはいうものの、少しでも最適なリーダー行動の”手がかり”になれば幸いです。

■調査概要

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調査期間:2015年11月3日~12月27日
調査場所:各組織の研修会場
調査対象:企業等の管理者、職場リーダー、キーパーソン等 102名
調査方法:ワーク後の質問式アンケート調査
調査項目:下記(1)(2)の度合いを4段階にて評価

(1)チーム成果(次の3項目についての度合い)
①目標達成度……狙いとする品質・コスト・納期等に対する達成
②組織活性度……個人の効力感、組織の一体感や相乗効果
③組織成長度……新しい考えや方法の導入、知識やノウハウの蓄積

(2)上記結果に影響を与えるリーダー行動(42項目)

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■チーム成果と相関が強いリーダー行動
①目標達成度

「目標達成度」とは、狙いとする品質・コスト・納期等に対する達成の度合いであり、相関が強いリーダー行動は、順に次のとおりです。

  1. コミュニケーション・ルート
  2. チームリーダー
  3. 権限委譲
  4. 指示・命令

このことから、困難な状況においては、チームリーダーがきちんと認知され、指示・命令系統や報告・連絡・相談ルートといった公式コミュニケーション・ルートを確立することが、目標達成に影響すると思われます。

また、サブリーダー等に権限を委譲し、リーダーおよびサブリーダーが指示・命令を的確に行うことも、目標達成に影響すると考えられます。

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初期ミシガン研究における「システム4理論」(R.Likert 1961)では、従業員中心の参画型組織が高業績につながるとあります。

たしかに、安定期においては、対人配慮や凝集性のような民主的なリーダー行動も大切でしょう。しかし、困難な状況を切り拓く場面においては、まず態勢を整えることが大切なのは言うまでもありません。

リーダーやサブリーダーの選定、組織設計、仕組みづくりなど、合理的なリーダー行動が不可欠です。

研修中のワークでも、控えめなリーダーによる参画型チームができあがりましたが、困難を切り拓くという状況では(相対的に)目標達成が遠かったようです。

②組織活性度

「組織活性度」とは、個人の効力感、組織の一体感や相乗効果の度合いであり、相関が強いリーダー行動は、順に次のとおりです。

  1. 進捗管理
  2. 成果物のコンセプト
  3. 配慮
  4. コミュニケーション・ルート

このことから、困難な状況では、どのような成果を出すか事前にコミットしたり、実行しているときに進捗をしっかり確認することで、メンバーが能力を発揮している効力感を覚え、一体感も高まるものと思われます。

また、リーダーが積極的にメンバーの考えや気持ちをくみとり、リーダーに相談できるコミュニケーション・ルートを確立することも、効力感や一体感につながると考えられます。

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進捗管理が最上位なのは少々意外かもしれません。しかし、目標達成に向けて「前に進んでいる」ことが実感できると効力感や一体感が高まる、と考えれば直観的に理解できるのではないでしょうか。

③組織成長度

「組織成長度」とは、新しい考えや方法の導入、知識やノウハウの蓄積の度合いであり、相関が強いリーダー行動は、順に次のとおりです。

  1. チームリーダー
  2. コミュニケーション・ルート
  3. 権限委譲

このことから、まずリーダーの存在が不可欠であり、リーダーとメンバーが双方向コミュニケーションをとれる仕組みを整えることが、革新(新しい考え方や方法の導入)および成長(知識やノウハウの蓄積)に影響すると思われます。

また、サブリーダーなどへ権限を委譲し、現場担当者の創意工夫に委ねることも、革新・成長に影響すると考えられます。

その他に「進捗管理」や「会議」も組織成長度と相関が強いことがわかってきました。アイデアを蓄積・活用する仕組みを目に見える形にすることが大切です。

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■総じて言うと…

今のところ、さして目新しさはありません(笑)。「そりゃ、そうだよね」という結論が大半です。

あえて言うなら、困難な状況を切り拓く場面では、”まず”課題志向のリーダーシップや合理的なマネジメントが求められると考えられます。

伝統的な「管理過程論」(J.H.Fayol1916)や、その派生形であるマネジメント(PDCA)サイクルは、職場リーダーにとって重要な概念として確実におさえておくべきでしょう。

一方、意外な点も見つかりました。

例えば、「チーム・ミッション」と目標達成度との相関が弱い?ことです。

ワーク後、受講者から「ミッションが無いと意思決定のより所が見つからない」という話をよく聞きます。組織というものは意思決定する生き物ですから、より所が見つからないのは致命的です。

しかし、チーム・ミッションと目標達成度の相関が弱い?両者は直接的な関係でつながっておらず、他に媒介する要素があるのでしょうか??

さらに調査・検証を重ねていきたいと思います。

■今後は…

チームの4タイプを明らかにしたうえで、どのタイプがどのようなチーム成果(目標達成度、組織活性度、組織成長度)になったかを紹介します。

また、チーム成果とリーダー行動について、タイプ別にどのような相関があるか紹介します。

さらに、リーダー行動の要素(42項目)間に相関がみられるものがありますので、これを解析することで、どのようなリーダー行動をとればチーム成果につながるのかを経路(パス)で考えてみたいと思います。

そして、結論として、「困難な状況においては、どのようなリーダー行動をとるのがふさわしいか」を独自に考察していく予定です。

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斎田真一(かえる先生)

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