生花配送部門の課長

私たちトレイクでは、誰でも発揮できる「等身大のリーダーシップ」について、事例とポイントを紹介しています。

■皆そしらぬ顔

そのリーダーは、生花販売業の配送課長。

配送部門では、年末になると、本業の配送業務の他に生花を販売するノルマが課せられる。ある年の販売目標は前年比120%。厳しい数字だと思いながらも、課長として投げ出すわけにいかない。

ミーティングで目標を示し、メンバーに奮起を促した。

数字を聞いたメンバーは最初から諦め顔だ。「完売出来なくても給料が下がるわけでない」「配送業務の邪魔になるだけ」「なぜ自分たちが販売まで行わなくてはならないのか」と後ろ向きな言葉ばかり口をつく。

いっこうに重い腰を上げようとしないメンバー。数日後、課長命令で販売会議を行った。

渋々集まったメンバーを前に課長が練った販売策を伝達するが、反応はない。配送業務が忙しいからと席を立つメンバーがいる。当てつけの逃亡だ。

緊張感を高めるため、販売状況を毎日報告させることにした。

2、3日も経つと報告は遅れがち。催促すると売れない言い訳ばかり。「なぜ我々が…」のそもそも論まで飛び出し振出しに戻る。

ならばと個人別の販売状況を壁に貼る。

職場が怒りに包まれる。「労働強化か!」と騒ぎ出す。

販売開始から1ヶ月。このままでは目標を達成できないばかりか前年割れになりかねない。危機感を覚えた課長は、配送センターの前で独り路上販売を始める。土・日曜日は訪問販売も行った。

それでも皆そしらぬ顔。

万策つきた課長は、メンバーを前に本音で語りはじめる。

■仕組みも、汗も

「皆が被害者意識をもっていることはわかっています。けど私は夢を持って販売しています。私たちが販売している生花は、贈る側と贈られる側の思いをつなぐものだから。商品の良さを知ってもらい喜んで買ってもらってこそ、私たち配送部門が存在できる。」

青くさい。しかも、たどたどしい。

白けた空気が漂う。

そのとき、ナンバー2の課長代理が突如沈黙を破る。「私には孫がいる。去年、孫から花をもらった妻は感激していた。課長の言うことはわかる。」

口下手な彼にとって精一杯の言葉だが、他のメンバーは黙り込んだまま。

会議は解散となった。

翌日、課長と課長代理の老練二人が寒空のもとで路上販売を行う。少し売れたが微々たるもの。目標には遠く及ばない。老練たちに諦めの表情が浮かぶ。

数時間後、中堅メンバーがオフィスから下りてきた。自分も手伝うと言う。その姿に触発され、仲間は3人、4人と増えていった。聞けば「課長の言葉を聞いて、課長代理の姿を見て、手伝いたくなった」と言う。

課長の気持ちは届いていた。

全員が路上販売に参加したわけではない。見て見ぬふりして退社する者もいる。けれど、たくさん売れた日に喜びを分かちあうメンバーの姿は見ぬふりできなかった。要は”気になる”のだ。

他のメンバーがそっと仲間に誘う。かぶりを振るつもりだったが、仲間の温かい目を見て何も言えない。

こうして全員が参加するようになった。

目標達成。

その瞬間、全員が高揚感であふれていた。できたという達成感と職場全体でなしとげた一体感は、彼らに学習性効力感をもたらした。その後の職場活動に、助け合いと相乗効果の文脈を築いた。

■リーダーは想いを抱き、語れ

仕組みだけでは人を動かすことはできない。リーダーが汗を流しても限界がある。キーパーソンを活用することも意識せねばならない。

だが、たとえサーバントであろうとも、リーダーは想いを抱くべきだ。それを言葉に変え、たどたどしくても語りかけることだ。動機が善なれば、良い。

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斎田真一(かえる先生)

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