業務システムのプロジェクト・リーダー
私たちトレイクでは、誰でも発揮できる「等身大のリーダーシップ」について、事例とポイントを紹介しています。
■プロジェクト・リーダーに
その方は、従業員200名ほどの電子部品製造会社にある経営管理部・業務管理課の係長級です。
経営管理部長は、業務を効率化しようと、業務システムの導入を検討していました。
システムの探索を任されていたその方は、部長に候補となるシステムを提案したところ、システム選定から導入までのプロジェクト・リーダーを任されることになりました。
情報システムは専門外ですが、任命されたからにはやり遂げようと覚悟を決めたうえで、自分に権限を与えてほしいことや、社内で軋轢が生じたときは部長が調停に入ってほしいことを依頼して承諾を得ました。
まず最初に取り組んだのが、各部門からプロジェクトメンバーを集めること。
人選の基準は業務に精通していることの他に、人望の厚いことです。メンバーが所属する部門からの納得を得られやすいと思ったからです。
次に、導入に向けた行程表の把握。
各部門の業務の把握、ベンダーとシステム要件の定義、経営幹部・管理職や社員への説明、構築・テスト、マニュアル作成、教育、運用と評価などを洗い出しました。
こうしてプロジェクトがスタートしました。
■身内からの反乱
各部門への説明が終わりいよいよ構築、というところで経理課長から思いもよらぬ言葉をきかされます。
「自分は始めからこのシステム導入に反対だ。導入したら作業が煩雑になり残業が増す」
経理部はプロジェクト・リーダーと同じ経営管理部です。リーダーは、身内からの反乱にいらだたしさを感じました。
しかし、経理課は業務システムの中核となる部門。経理課長をなおざりにはできません。理論武装をして何度も説得しましたが、相手はわかってくれません。
たしかに、導入移行期は一時作業が煩雑になります。それを盾に取られると、もう理屈で説得することはできません。
管理部長へ調停を願い出ることもできるのですが、経理課長がへそを曲げては後々面倒です。粘り強く説得を続けることにしました。
■丁寧に、誠実に
リーダーは、これまでのように理屈で説得することをやめ、経理課長にも言い分があるはずだと自分に言いきかせ、丁寧に聴くことにしました。
最初は辛辣なことも言われましたが、やがて、経理課では決算期のほかにも残業が多いこと、それゆえ社員が疲弊しておりメンタルで休職している者もいること、こうしたことから経理課長が心を痛めていること、負担の少ない仕事環境をつくってやりたいと思っていることがわかってきました。
本音を引き出すことができたのです。
この業務システムは、情報化による業務の効率化と社員の負担軽減が狙いですので、目指すところは一致しています。リーダーは、わかりやすいメッセージとして「残業が減る」ことを訴えることにしました。
胸の内を聴いてくれた経理課長は、心をひらいてくれるようになり、メッセージを素直に受けいれました。
リーダーはすかさず、業務が一時的に煩雑になることはマニュアルをより整備して対応することや、経理課に対する社員教育をしっかり行うことを、時間をかけて誠実に説明しました。
こうした対応に、もう意固地だった経理課長の姿はありません。それどころか、移行作業を円滑に進めるため、プロジェクトに経理課のメンバーも参加させることを提案してくれたのです。
■あらたな経験知
無事、システムが導入されて管理部長もまじえた関係者と祝杯をあげた帰途、ふと思い出しました。
「そういえば、身内から反乱がおきても管理部長に調停に入ってもらうことはなかったな。権限を与えてもらったのだから、自分の力で解決しようと腹をすえたことが良かったのかも。いや、きっと調停が必要なときもあっただろう。いざとなったら調停してもらえばいいさ、という気持ちが自分を前に進めたのかも。管理部長に感謝しなければ」
内省を終えたリーダーに、あらたな経験知が加わりました。
■ポイント(等身大のリーダーシップ発揮にむけて)
・覚悟をきめる
・何の権限がほしいかを明確にして、権限を与えてもらう
・上司の協力をとりつける(調停など)
・人望の厚いプロジェクトメンバーを集める
・専門家のリソースを借りる(ベンターなど)
・理論武装をして説得する
・理屈だけでは説得できないことを知る
・相手の立場にたって丁寧に話を聴く
・本音を引き出したうえでWin-Winのあるべき姿を描く
・実現策を誠実に説明する
・上司の調停を使う場面を慎重に見極める
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斎田真一(かえる先生)
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